コロナ禍における
  一般人口の飲酒問題の実態とその関連因子

Alcohol Use and Its Related Psychosocial Effects during the Prolonged COVID-19 Pandemic in Japan: A Cross-Sectional Survey

​本研究のまとめ

パンデミック前(2018年)の日本のデータと比較して、男女ともにアルコール依存症疑い(飲酒行動の指標であるAUDIT15点以上)の割合が高く、その割合の増大傾向は特に女性で顕著であった

・男性の危険な飲酒(AUDIT8~14点)の割合はパンデミック前後で目立った差はないが(むしろ減少傾向)、女性の同グループの割合は増加していた。

アルコール依存症疑い群では、危険な飲酒群および飲酒問題なし群(AUDIT8点未満)と比べて、心理的苦痛、抑うつ、不安が強かった。(※なお、いずれの心理指標においても、パンデミック前のデータと比較すると、飲酒問題の有無にかかわらず全体的に良好ではない)

・不安と抑うつが高いほど、アルコール依存症疑いの推定と関連していた。

・健康的な食習慣の減少、健康的な睡眠習慣の減少、(他者に感染させないための)予防行動の減少、身近な人との関係の悪化、COVID-19関連の不眠の悪化、仕事や学業の困難、COVID-19関連の不安の減少が、アルコール依存症疑いと関連していた。一方、運動の増加と、身近な人とのオンライン交流の増加も、あるアルコール依存症疑いと関連しているなど、解釈の難しい結果もあった。

・以上を踏まえ、COVID-19の流行による日常生活上の様々な困難は、深刻な飲酒状況と関連しており、こうした困難を抱える人々に対するサポートが必要であると考えられる。

本研究成果は,以下の論文にまとめられて,2021年12月17日に国際学術雑誌『International Journal of Environmental Research and Public Health』にて公刊されました。

 

Alcohol use and its related psychosocial effects during the prolonged COVID-19 pandemic in Japan: A cross-sectional survey

Nagisa Sugaya, Tetsuya Yamamoto, Naho Suzuki, Chigusa Uchiumi

Int. J. Environ. Res. Public Health 2021, 18(24), 13318

doi: https://doi.org/10.3390/ijerph182413318

主な結果

我々は3回目の緊急事態宣言期間の終盤(2021年6月15~20日)に宣言の対象地域となった6都府県(東京、愛知、大阪、京都、兵庫、福岡)に在住する11423名(うち女性が48.5%、平均年齢48.82 ± 13.30歳)を対象に飲酒行動を含めた調査を行いました。

この研究で用いた飲酒行動の指標はAUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test)という世界的に用いられている尺度です。

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AUDITは過去1年の飲酒について尋ねるものでアルコール依存症の診断基準も同様です。3回目の緊急事態宣言は1回目の宣言の約1年後なので、この長引くパンデミックや緊急事態宣言が繰り返される状況下において、どのような因習状況の実態があるかを調べるにはさいてき時期だといえます。

AUDIT得点が8点未満は「飲酒の問題なし」、8~14点以上は「危険な飲酒」、15点以上は「アルコール依存症の疑い」と判定されます。

 

ここでは主な結果をピックアップしてお示しします。

【パンデミック下の飲酒状況】

以下は性別による飲酒問題の比較です。本研究ではパンデミック以前のデータがありませんので、2018年に実施された疫学調査の結果と比較・検討してみました。

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パンデミック前である2018年の日本のデータ(金城ら, 2019)と比較すると、

 

◆アルコール依存症疑い(AUDIT15点以上)の割合が大きい(特に女性で顕著)。

◆男性においては危険な飲酒(8~14点)のグループにおいてはパンデミック前後で目立った差はないが(むしろ減少気味)、女性においては増加している。

といった傾向が見られます。

男性においては、危険な飲酒を行う人々の割合は増えておりませんが、危険な飲酒から依存症疑いに悪化したケースがふえている可能性があります。ちなみに本研究の女性参加者の抑うつと不安は男性よりも高く、多くの先行研究と同じ傾向です。COVID-19感染拡大というストレスフルな状況に対して、女性の方が危険な飲酒やアルコール依存に発展する精神面の脆弱性を持っている可能性もあり、今後のさらなる検討が必要となってくる部分です。

 

 

【飲酒行動の重症度にかかわる心理指標およびCOVID-19関連指標】

次は飲酒問題のレベル別に様々な心理的特徴を比較した結果です。

図1.png

*1依存症疑いと他の2群との間に有意差

*2 全ての群間に有意差

*3危険な飲酒と他の2群との間に有意差

 

K6は心理的苦痛、PHQ-9は抑うつ、GAD-7は不安、UCLA-LS3は孤独感、LSNS-6はソーシャルネットワークの指標です。依存症疑い群で心理的苦痛、抑うつ、不安が強く、孤独感は飲酒行動が悪化するにつれて強く、また危険な飲酒群では他の2群よりソーシャルネットワークが高い(しかし12点未満は社会的孤立状態と判定されるため、いずれの群も良好ではない)という結果でした。しかしながら、孤独感とソーシャルネットワークについては効果量(η2)が非常に低いため顕著な差ではないと考えられます。

さらに多項ロジスティック回帰分析の結果では不安と抑うつが高いほど、依存症疑いと関連するものの、危険な飲酒の有無とは関連しないことが示されました。これらの結果は、飲酒問題の深刻さと心理的問題の深刻さは必ずしも直結していないことを示唆しています。依存症にまでは至らない危険な飲酒行動のある人は、精神的な問題があまり顕著でないゆえに、医療機関につながりにくくなる可能性もあるので注意が必要です。一方、いずれの心理指標においてもパンデミック前の先行研究と比較すると、どの飲酒行動のグループでも良好でないことから、COVID-19のパンデミックは飲酒行動の有無によらずストレスを引き起こしていると言えます。多項ロジスティック回帰分析においては社会的ネットワークの増大が危険な飲酒と依存症疑いの増大に関連することが示されました。これは意外な結果ではありますが、今回使用したLSNS-6は人間関係の質に関する情報を提供しないため、もしも社会的ネットワークの多くの人との対人関係が悪い場合は、それによる精神的健康の悪化がアルコール使用に影響する可能性もあり、その実態については今後の研究で検証する必要があります。

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Note. R2= 0.095(Cox–Snell), and 0.133 (Nagelkerke). Model χ2(46) = 898.94, p< 0.001. No Problem: AUDIT score <8. Hazardous Use: AUDIT score =8–14. Potential Alcoholism: AUDIT score 15. COVID-19: Coronavirus disease 2019. PHQ-9: Patient Health Questionnaire-9. GAD-7: Generalized Anxiety Disorder-7. UCLA-LS3: UCLA Loneliness Scale Version 3. LSNS-6: the abbreviated Lubben Social Network Scale.

 

COVID-19に関連した項目についての多項ロジスティック回帰分析の結果、運動の増加、健康的な食習慣の減少、健康的な睡眠習慣の減少、(他者に感染させないための)予防行動の減少、身近な人との関係の悪化、身近な人とのオンライン交流の増加、COVID-19関連の不眠の悪化、仕事や学業の困難、COVID-19関連の不安の減少が「アルコール依存症疑い」と関連していました。この結果については以下のように考察しています。

 

まず、身近な人との関係やオンライン交流については、身近な人とのネット上での交流が増えたとしても、その人との関係が悪化しているとストレスが増大し、結果的に飲酒行動の悪化につながる可能性もあります。また、人間関係の問題だけでなくCOVID-19に関連する睡眠の問題も、依存症やその予防に対する介入の対象になり得ることが示唆されました。なお、予防行動の減少と依存症疑いとの関連については、上述の通り、依存症レベルの飲酒行動を伴う人々において人間関係の悪化により対面での他者との交流が減少しているため、予防行動の機会が減少していることに起因している可能性があります。

また、仕事や学業上の困難が依存症レベルの飲酒行動と関連することが示唆されました。一方で、低所得者層では他の層より依存症疑いの割合が高くなかったことから、仕事上の困難により生じた低所得状態が(それによるストレス等を介して)飲酒行動を悪化させたとは断定しがたく、この結果の背景についてはより詳細な分析が必要です。

一方、解釈の困難な結果もいくつか示されました。まず、運動量の増加と依存症疑との関連です。生活習慣の乱れが依存症のリスク増大につながることは想像に難くないですが、運動の増大が依存症レベルの飲酒行動と関連していたことについての解釈が難しく、これについてもさらなる検討が必要です。また、COVID-19関連の不安の減少が依存症疑いと関連するという結果も解釈の難しいところです。この不安については「COVID-19に関するニュースを見て緊張や不安を感じた」という項目を用いて尋ねており、そのようなニュースを見ている状況に限定されているため、依存症レベルの飲酒行動を伴う人々でそれを見ていない人が多く含まれている可能性もあります。

以上のことから、COVID-19の流行にともなう日常生活上の様々な困難が、深刻な飲酒状況と関連しており、こうした困難を抱える人々に対するサポートが必要であると考えられます。

今後、さらに長期的な追跡調査を行いながら、COVID-19パンデミック時にアルコール関連問題を起こしやすい心理的問題を持つ人々に対して最適な支援を行うための介入方法・システムを開発する必要があります。

​(文責:菅谷渚)